右脳開発でお子様の才能を開花
第204回 「若者の格差」が日本社会全体を衰退させる
あるレポーターが
キャリア教育コーディネーターとして
ある地方都市の小学校へ行った時に
その小学校で担任をしている先生が
こう答えてくれました。
「うちの学区にはコウソウがあるんです。
コウソウって五階建ての高層アパート・
県営住宅のことですよ。
家賃が安いから、
低所得者層の家庭が多く住んでいて、
まわりに昼間から仕事をせずに
プラプラしている大人もたくさんいます。
だから、「どうせ僕は将来ニート」という
小学生がけっこういるんですよ。
彼らは、周りの環境に影響されやすいんです。
それほど不幸せに見えないし、
勉強は面白くなければ、
どうしても安易に流れてしまう。
教員もそんな生徒にも、
「それじゃダメだ」と伝えているのですが、
これが難しい…。
バブル崩壊後、社会が低迷し、
閉塞した大人に囲まれる中で、
本来であれば、将来の夢や希望に
溢れているはずの小学生でさえ、
夢も希望ももてない状況になっています。」
正に「希望格差」とも呼ぶべきこの状況は、
その後、現場の教員と話をしていると、
ますます強まっていると感じます。
そもそも圧倒的な格差のなかに
長期間置かれた子どもは、意欲を喪失し、
「金持ちと結婚したい」とか、
「生活保護うけて、働かずに生活したい」
など他力本願になるか、
冒頭の小学生のように「どうせニートに」等、
自暴自棄になってしまうのです。
圧倒的な格差の前で、
ハングリー精神がどんどん消えていきます。
このような若者の格差を
放置しておいてよいのでしょうか。
教育投資というのが
どれだけ国全体に必要なのかを
税収からの観点で捉えてみましょう。
年収360万円程度の正社員の納税額は33万円。
年収106万円のフリーターの納税額は7万円。
つまり、その差26万円です。
これがもし40年間続いたとしたら、
約1,000万円の差になります。
これに加えて、これに生活保護費が30年間、
月10万円必要とすれば、
月10万円×12ヶ月×30 年=3,600万円が
支出されることになります。
あわせて4,600万円の税収損となります。
深刻な少子化を迎えている日本に、
そんな余裕はありません。
裏を返せば、その一人の若者をきちんと
社会の担い手になるまで教育することに、
1,000万円かけても、長期的にはペイする
ということなのです。
これが社会的な意味での
教育投資のリターンなのです。
このように、「若者の格差」の問題は、
当事者の問題ではなく、
社会全体に影響を与える負の連鎖であり、
放置すればさらに問題は大きくなります。
一時、ニートや引きこもりの問題は
若者の問題として取り上げられましたが、
現在では「5080問題」として
さらに厄介なものになっています。
今年の東京大学入学式で、
上野千鶴子氏の祝辞が話題になりました。
その中で、このようなメッセージがありました。
「がんばったら報われると
あなたがたが思えることそのものが、
あなたがたの努力の成果ではなく、
環境のおかげだったことを
忘れないようにしてください。
あなたたちが今日「がんばったら報われる」と
思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、
あなたたちを励まし、背を押し、
手を持ってひきあげ、やりとげたことを
評価してほめてくれたからこそです。
世の中には、がんばっても報われないひと、
がんばろうにもがんばれないひと、
がんばる前から、「しょせんおまえなんか」
「どうせわたしなんて」とがんばる意欲を
くじかれるひとたちもいます。
あなたたちのがんばりを、
どうぞ自分が勝ち抜くためだけに
使わないでください。
恵まれた環境と恵まれた能力とを、
恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、
そういうひとびとを助けるために使ってください。」
まさに、これからのリーダー的な役割を担う人は、
自分自身の成功の根源はどこにあるのか
ということをきちんと認識し、
それを社会全体の中でどう役に立っていくか、
お返しをするかを考えなければなりません。
「自分だけが良ければいい」という思考の結果、
原発の廃棄、プラスチック問題、炭素社会問題等
数え上げればきりがないほど問題は山積しています。
入り口だけを考えて出口を考えない思考では、
永続的な社会を作ることはできません。
恵まれた環境で育つことができる子どもたちは、
与えられた環境がいかに貴重なもので、
周りの人たちの協力なしには
できないということを自覚し、
独りよがりになってはいけません。
そして、常に感謝の念をもって
物事にあたることが重要です。
競争に勝つことばかり教えるのではなく、
このような心を育んでいきましょう。
ちなみに、東大生一人当たりにかかる国費負担は
年間500万円、4年間で2,000万円だそうです。
これは東大だけではありません。
この数字を見ても、
いかに人はいろいろな人からの援助を
受けているかということがわかります。